(新サイトに投稿していますが、ここにもまだいくらか容量が残っていますので)
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最近のビッグニュース。
62年もの間空席になっていた、大名跡「春風亭柳枝」復活と言う朗報。
八代目の遺族が、後継者の襲名に首を縦に振らず、直弟子の1人「三遊亭圓彌」師匠も襲名が叶わなかった・・・。
圓生・志ん生・柳枝の落語協会の大名跡の復活はもうないのか・・と思っていた部分もありましたから。
この点も踏まえて、九代目を襲名することになった春風亭正太郎さんの師匠の正朝師匠が、詳細にツイートしていました。
正太郎が真打に昇進することが決まりました。
来年3月下席より、九代目春風亭柳枝を襲名する運びとなりました。
ツイッター、フェイスブックに書きましたところ、思いがけず多くの人からお祝いのメッセージ等をいただき、少々驚いています。
少し遅くなりましたが、このブログで謹んでごあいさつ申し上げます。
実は、正太郎の真打昇進が内定したのは、昨年の秋のことでした。もう半年以上前です。
落語協会から連絡を受けた私は、すぐに正太郎に知らせました。
当然、嬉しい知らせには違いありませんが、さほどの感動も無かったように思います。
言うなれば、二人とも「来るものが来た」という感じだったでしょうか。
弟子の真打昇進が決まって私がすぐに考えたのは、名前のことです。
正太郎は平成18(2006)年4月、私のところに来ました。
私にとっては最初の弟子です。
その時に正太郎と名づけて以来、ずっと正太郎のままです。
真打になるに当たって、正太郎ではいささか軽すぎるでしょう、前座名前ですから。と、そう思いました。
師匠として弟子に良い名前をつけてやりたい。なにか良い名前はないかと、ここ何年も考えていました。
実は、我が落語協会には
春風亭柳枝という名跡があります。
説明しないと分かりませんが、普通、噺家の名前は遺族がその権利を持つものです。
と言っても大相撲の年寄株のように、お金で売買するようなものではありません(今は相撲界も少々事情が違うようですが)。
権利と言うのは、言わば「誰に継がせるか」という決定権です。
大名跡になればなるほど、その権利者(持っている人)は明確です。
「圓朝の名前は、藤浦さんが預かっている」というように。
八代目春風亭柳枝師匠は、本名が島田勝巳
「お結構のかっちゃん」と呼ばれた昭和の名人です。
命日は 昭和34年10月8日。この時、私は小学校1年生でした。当然、生の高座は知りません。
娘さんが居ます。
柳枝の名跡は、本当なら遺族である娘さんが持っているはずですが、落語協会にその権利を預けられました。
正式に「落語協会が保有している」ということになったのです。
私も、そのことは知っていました。
実はもう十年以上前に、ある寄席関係者の方から「正朝さん、柳枝を襲いだらどうだ」と言われたことがあったのです。
私も一瞬その気になりかけましたが、やはり無理だと結論づけました。
その後、何人かが「柳枝になりたい」とか「柳枝を欲しがっている」という噂は聞きましたが、いずれも具体化するまでは、いきませんでした。
「正太郎に柳枝を襲名させてやりたい」と思いました。
去年の暮れ、ある先輩に恐る恐る話しました。
「ごくごく内々の話ですよ。誰にも言わないでください。あくまでも私の個人的な気持ちだけです。まだ、誰にもこんな話はしてないんですから」と、妙にもったいをつけて、このことを打ち明けました。
すると先輩は 「いいじゃないか。やれやれ。それはいい話だ。俺も後押ししてやる」 と、大賛成してくれたのです。
すぐに正太郎に聞きました。
再来年3月真打になるということだけを承知していた正太郎は、突然「柳枝を襲名する覚悟はあるか」と聞かれ、明らかに驚いていました。
狼狽と言っていいかもしれません。
彼にしてみれば、まさに
青天の霹靂だったかもしれません。
しかし、すぐに「許されるなら、襲ぎたいです」と、はっきり言いました。
それからは、トントン拍子でした。
会長の市馬さんも大賛成してくれました。
協会預かりとは言え、娘さんご夫婦は健在です。
仁義として、ご遺族に筋を通さなくてはいけません。
2月、まだコロナ騒動になる前の寒い日でした。落語協会事務局長と三人で、神奈川県のお宅にごあいさつに伺いました。
事前に電話でお話を聞いていてくださったご夫妻は、歓待してくださいました。
「正太郎さんなら、嬉しいです」とまで言っていただきました。 すべてOKです。
3月の理事会で正式に決定して、本来なら4月1日に発表する予定でした。
ところが、このコロナ騒動で、今年の真打披露もゴタゴタしてしまっています。8月から披露興行のやり直しという状況です。
発表のタイミングが延び延びになって、先日の7月1日に正式発表となった次第です。
由緒ある名跡の62年ぶりの復活です。
はっきり言って、正太郎はまだまだ未熟です。今は、とても柳枝と言える芸はありません。すべては、 これからです。
よく言われることですが、真打になるのはゴールインではありません。ようやくスタートラインに立ったということです。
正太郎にとっては九代目柳枝の名前を、これから大きくしてゆくのが使命です。
それにはお客様のご贔屓お引き立てが、なによりも肝腎です。
どうぞ温かい目で見守ってやってください。
新しい九代目春風亭柳枝を、なにとぞよろしくお願い申し上げます。
・・・改めて、正太郎さん、おめでとう。