五百羅漢・・
「師匠、桂やまとさんの独演会で"五百羅漢"を聴いて来ました」
「あぁぁ、どうだった?」
昨日の落語っ子連の稽古で、師匠に真っ先に報告しました。
「五百羅漢」は、三遊亭圓生師匠しかやる人がいずに埋もれていた噺を、弟子の圓窓師匠がオチだけを残してほとんど全編改作したものです。
http://ranshi2.way-nifty.com/blog/2020/01/post-87267a.html
https://www.youtube.com/watch?v=lZ1vgK0paKg
一昨日の独演会で、やまとさんが、直に圓窓師匠に稽古をつけていただき、ネタ下ろし(初演)しました。
この噺、私にとっても、圓窓師匠から教えていただいた十八番の一つであり、満を持して聴きに行きました。
プロの噺家さんの高座について、コメント(批評)などは出来ませんが、まず不思議な感覚になりました。
随分長く落語に触れていますが、初めての経験・感覚でした。
私が、稽古して演じたことのある噺を、同じ本(高座本)でプロが演るのを聴いたこと。
ストーリーを熟知していて、次にどんな台詞が出て来るかは、誰の噺を聴いても分かりますが、そのレベルでなく、覚えている同じ本で仕込まれた噺ですから、私の頭の中に克明に台詞や語りが先行していて、その後をなぞるように噺が進行して行くという・・・。
師匠にも、こんな経験は初めてでしたと。
とは言え、やまとさんは、師匠の高座本に沿って、丁寧に作り上げていました。
口伝が原則の世界ですから、初演では当然のことだと思います。
ところが、私は、師匠からのアドバイスなどもあって、むしろ稽古の時に師匠がほとんど思い付きで変えた部分や、アドバイスに基づいて私が変えた部分もあって、後半部分はかなり演出が違っています。
私は、後半は、地語りの部分をなくして、全て、台詞と仕草で噺を進めています。
また、師匠の高座本も、私が覚えた時から改訂された部分もありますから、やまとさんのとかなり違いました。
師匠からは、「流三さんのやり方(台詞と仕草だけで進める)も、とても良いよ」と言われていますから。
尤も、稽古の時に師匠からアドバイスされて、変えたものです。
・・・師匠は、今回のやまとさんが演ってくれたことを、本当に喜んでいました。
「五百羅漢」の高座本を読んだやまとさんの奥さんが涙を流したそうで、これも喜んでいました。
私をはじめ、素人の弟子たちは、師匠の創作噺を演らせていただいていますが、即興が求められるプロの噺家さんには、なかなかやってもらえる機会が少ない中で、今回のやまとさんの口演は、本当に嬉しかったようです。
プロの噺家さんと比べたり、張り合ったりする訳ではありませんが、私にとっても、大変参考になりました。
プロでもアマでも、いつも師匠から言われていることを忠実に実践することが大切だと。
・・・やまとさんから、お礼のメールが届きました。
(メール予約をしている人たち全員宛だと思います。)
桂やまとです。
昨日は独演会にお越しくださいまして、誠にありがとうございました。
今回は「五百羅漢」を初演いたしました。
心に染み入る噺で、これからも練り上げ続けていきます。
【五百羅漢】
八百屋の棒手振り八五郎は、六つくらいの見ず知らずの女の子を連れて商いから帰ってきた。
この子は迷子で、かみさんの問い掛けにも口を利けない。どうやら、先だっての大火事で親とはぐれてしまい、驚きのあまりに言葉を失ってしまったのであろう。
迷子だったので”まい”という名前をとりあえず付けて、親が見つかるまで手許に置くことにした。
翌日から、八五郎は商いをしながら、女房は外へ出て用足しをしながら、尋ね回るが、一向に手がかりはなかった。
四日目。「このまいは、いやな子だよ。ヤカンを持って口飲みするよ」、とかみさん。
「親の躾が悪いのかな~。親が見つからなかったら、うちの子にしてもいいと思っていたのに・・・。手がかりがねぇんだから、探しようがねぇ」。
「だったら、この子を檀那寺の五百羅漢寺へ連れってって、羅漢さんを見せたらどうだい? 五百人の羅漢さんのうちには自分の親に似た顔があるというよ。それを見つけて、なんか言おうとするんじぇないかい。それが手がかりになるかもしれないよ」 。
翌日、五百羅漢寺へ行って羅漢堂の中の五百の羅漢さんを見せた。
上の段の一人の羅漢をジーッと見つめて、指差しをした。
「この子の父親はこういう顔か。これも何かの手がかり」と納得して、境内を出たところで、住職とばったり会った。
”まい”のことを話すと、住職が「今、庫裏の畳替えをしているんだが、その畳屋さんが『火事でいなくなった娘がまだ見付からない』と、来る度に涙ぐむんだ」と言う。
その時、子供が畳の仕事場になっている所へ駆け寄ると、小さいヤカンを持って口飲みを始めた。
これを見た八五郎「畳屋の娘だ! 躾が悪かったわけじゃねぇ。いつも親と一緒に仕事に付いて行って、覚えたのが、口飲みだったんだ」。
ちょうど庫裏から畳を運び出してきた畳屋が、子を見付けて”よしィ!”と絶叫。
はじかれたように立ちあがった子が、「ちゃーん!」と声を出して、吸い寄せられるように跳び付いていった。
畳屋は泣きながら、その子を両手で包むように抱きしめて離さない。
この様子を見ていた八五郎「やっと声が出た・・・。本物の親にゃ敵わねぇ」。
住職も八五郎も涙して「しばらく、二人切りにさせておきましょうや」。
二人が手をつなぎながら、親が大きなヤカンを持って口飲みをして、プーと霧を吹き出すと、畳ほどの大きな虹が立った。
子供が小さなヤカンで口飲みして、ぷーっと小さく霧を吹くと、可愛い虹が立った。この二つの虹と虹の端が重なった様は、親子がしっかりと手を握り合って「もう離さないよ」と言っているようだった。
八五郎は「こちらへ来てよかった。さすが五百羅漢のおかげだ」。
住職は「な~ぁに、今は親子ヤカン(羅漢)だよ」。
・・・私も、さらに練り上げて行きたいと思います。
ツイートもありました。
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