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2019年3月29日 (金)

千早亭永久「救いの腕」

2011年10月の「第3回千早亭落語会」の演目は「救いの腕」。
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この噺を師匠の一門会で聴いて、時間が経てば経つほど、何となく気になって来て、とうとう稽古をお願いすることになりました。
師匠も、ご自身の創作ですから、大変喜んでくださいました。
http://ranshi2.way-nifty.com/blog/2014/09/post-6e66.html
「あたしの弟子はやってくれないんだよ」なんて・・・。
あらすじをご紹介しておきましょう。
お香(こう)が姉のお里の家に来て、5年前に夫婦になった夫の善吉に愛想が尽きたと言い出す。
その原因は、真面目な善吉は、大きな声をあげたり、遊びに出掛けたり、お香を殴ったりすることもなく、毎日毎日決まった時刻に仕事から帰り、家で本ばかり読んでいるのが嫌だ。
他人からみれば、非の打ちどころのない善吉とは、もう一緒にいられないという。
それに比べて、遊んでばかりで、ろくに家にも帰らず、たまに帰ると付き馬を連れて来たり、暴力をふるい、お里も殴り返したりしている姉のお里夫婦がとても羨ましいと。
お香は、実は子どもの頃から「この人と一緒になりたい」と思っている人がいると告白する。
お里が誰かと尋ねると、15年前の10歳の時、(お里が)勝手にお香の下駄を履いたことで喧嘩になり、一人で家を飛び出して行った向島で、川に落ちて溺れてしまうが、その時に助けてくれた、太くて逞しい腕の人なんだと言う。
誰だったのかは未だに分からないが、お香は、いつか必ずこの人にめぐり会えると思い続けていた。
お香は、善吉と一緒になったのは、お里が善吉と夫婦になるだろうと思っていたので、下駄の仕返しにと軽い気持ちで善吉に言い寄ったら、意外にも善吉が乗り気になってしまい、後に引けなくなったからだと言う。
それでも、一応自分で納得して夫婦になった。
しかし、他人から見れば、真面目一方で全てよしの善吉にはもうついて行けないと、お里に向かって愚痴を続ける。
お里は、ちょっと工夫して、今までとは違う何か新しいことをやってみたらと諭す。
そして、とりあえず二人で向島の花見に行ってみてはと勧める。
お里に諭されたお香は、家に帰って善吉を説得して向島に誘い、翌日二人で行く約束をし、その夜お香は先に布団に入る。
翌日、二人は向島に花見に出かけるが、お香は15年前に自分が溺れた場所を探そうと、一人でどんどん進んで行く。
どうやらここらしいという場所を見つけ、土手の草の上に腰をおろしていたが、上流から流れて来た桜の枝を取ろうとして、誤って川へ落ちて溺れてしまう。
するとまた15年前と同じように、太くて逞しい腕が入って来て助けてくれた。
・・・ところが、これはお香が見た夢だった。
お香が、どんな夢だったのか話をすると・・。
善吉:「・・・そう言えば15年前だ・・・。」
お香:「15年前・・って、何があったの?」
善吉:「向島でな、溺れた女の子を助けたことがあったよ。」・・。
12
この噺に取組んでの感想などを、高座本に載せていただくことになり、以下のような一文を書きました。 
「圓窓五百噺」の第499番目、師匠が女性作家の唯川恵さんの短編小説をヒントに創作された噺。
今まで演ったことのないパターンの噺にチャレンジしてみようと、師匠にお許しをいただいて取組んでみました。
男が、男の目で、男を主人公にして口演される噺が多い中、女性を主人公にして、女性の会話だけでストーリーが展開して行きます。
ところが、原作者の師匠しか口演されていない噺で、しかも女性同士のやり取りが続くために、今まで経験したことのない高い壁にぶつかってしまい、なかなか出来上がらず、本当に悩みました。
「耳慣れない噺だから、とにかく耳で慣れることだよ」と師匠からのアドバイス。
そして苦心惨憺の上で臨んだ本番の高座の当日。
客席には、おかげさまで中年の女性を中心にいっぱいのお客さま。
マクラをふって本題に入って暫くした時でした。
ちょっと不思議な感覚に捕われました。
喋っているのは確かに私なのですが、噺を進めているのは私ではないのです。
話の中の姉妹の会話が客席に入り、観客が噺を引っ張って、拙い私を助けてくれている・・??
オチの後に、「あぁぁ・・」という溜息のような声が聞こえました。
「自分のことのように聴きました」「身に詰まされてしまいました」と、何人もの女性の方が声をかけてくださいました。
実は、自分では予想もしていなかった反応でした。
「あれは、私が喋った噺ではない。演者を越えて、作品と観客の方々が勝手に共鳴して出来上がった高座だった。」そんな気がします。
師匠から頂戴したこの噺、これからも大切にし、折に触れて口演を繰り返してみたいと思っています。
再びあの快感と感動に出会えるように。
・・・懐かしいなぁ。

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