脱出作戦
日産のゴーン元会長の保釈の際の変装脱出作戦は、見事に大失敗でした。
この脱出爆笑作戦を考えて実行した、弁護団の弁護士が謝罪しているそうです。
自身のブログで「すべて私が計画して実行した。彼が生涯をかけて築き上げてきた名声に泥を塗った」と。
仮に、完璧な変装をしていたとしても、周囲にこんなに多くの拘置所の職員が囲んでいたら、バレバレです。
「禁酒番屋」で、水かすてらを「どっこいしょ」と持ち上げたみたいなものです。
そして、大手自動車メーカーのトップにいた人が、他社の、しかも軽のワンボックスに乗って拘置所を出るという・・・、これは何とも哀れになってしまいます。
ところで、幸い、私には縁のない場所なので知りませんが、拘置所の前の店の看板が面白い。
「〇〇屋 差入店」ですって。
収監されている人への差入品を売っているんでしょうか?
昔、免許証更新に行くと、門前に代書屋(行政書士)さんの事務所が並んでいたみたいなものですね。
ところで、落語には、脱出作戦大成功の噺があります。
弁護士の先生も、この落語を知っていれば・・・、こんなに恥をかくこともなかったかもしれません。
「風呂敷」という、五代目古今亭志ん生師匠の十八番です。
お崎が夫の熊五郎の帰りを待つ長屋に、幼なじみの半七が遊びに来る。
ふたりで語り合っていると、「おい、今帰った」と戸を叩く熊五郎の声がする。
熊五郎は飲み込みが悪く、嫉妬深く、粗暴であったため、お崎は「不倫と勘違いされて殺されかねない」と恐れるあまり、とっさに半七を押し入れに隠す。
お崎は、熊五郎が眠った隙に半七を逃がそうと考えたが、酒に酔っている熊五郎は、「なぜ予定より早く帰って来たの」と問うお崎に対し、「貞女は屏風にまみえず(=貞女は両夫にまみえず)」「女は三階に家なし(=女は三界に家なし)」などと、覚え間違いの訓戒を垂れるうえ、押し入れをふさぐような形で横になり、寝込んでしまう。
困ったお崎のもとに、鳶頭(かしら)の政五郎がやって来る。ことの次第を聞いた政五郎は、隣の家から1枚の風呂敷を借り、お崎を外出させ、熊五郎をゆさぶり起こす。
「ああ、かしら。お崎はどうしました」
「買い物に行ったよ。ところで、面白い話があるんだ。今日、友達の家(うち)に行ったらな、おかしな話があったんだよ。そこのカミさんが留守番をしていると、そこへ、幼なじみが遊びに来た。乱暴者の亭主の手前、追い返そうとしたカミさんだが、結局男を家に入れた」
「悪いアマ(=女)だ! 俺が亭主だったら、張り倒してやりますよ」
「そうか。まあ、その幼なじみと一献まじえていると、亭主が不意に帰ってきたと思え。で、そのカカアがあわ食って(=あわてて)、押し入れに男を隠しちまった。すると、亭主が酔っぱらって、その前に寝ちまった」
「そりゃ、困ったろうな」
「そこで、俺がカミさんに頼まれて、そいつを逃がしてやったんだ」
「どうやったんです」
「寝ころんでたやつを、首に手をかけて起こして、よそ見をされちゃいけないから、脇から風呂敷を持ってきて亭主の顔へ……」
政五郎は、熊五郎の顔に「こう巻き付けて……」と言いながら風呂敷を巻く。
「そこでな、俺は戸を、こういう塩梅に、ガラリ、と開けた」
戸が開け放たれ、半七が転がり出る。
「おい、拝んでねえで早く逃げろ、……と目で合図をして。下駄なんかを忘れるな! ……と声をかける」
「へえ」
「そいつが影も形もなくなったら、戸を閉めて、それから亭主にかぶせた風呂敷を、こうやって……」
政五郎が熊五郎の顔から風呂敷を取ると、熊五郎は膝をたたき、「なるほど、そいつはいい工夫だ」
ゴーンさんも、風呂敷がなかったからしくじったんですね。
弁護士は変装の目的について「素顔をさらして住居に向かえば膨大な数のカメラが追いかけ、住居が全世界に知れ渡り、家族や近隣住民の生活も脅かされる」と、メディアの追跡を避けるためだったと説明。
その上で「私の頭にひらめいたのが昨日の方法だった。しかしそれは失敗した」と釈明。
メディアに対しては「著名人にも身近な人と心安らぐ場所が必要」と、取材への配慮も求めた。
・・・確かに、メディアのレベルが低すぎる。
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