「火焔太鼓」のイラスト
この噺は「ザ・古今亭」という噺です。
五代目古今亭志ん生師匠の十八番中の十八番です。
古道具屋の甚兵衛は、商売人と思えないほど呑気でお調子者の商い下手である。
儲けが出そうでも正直に話してふいにしてしまう一方、家の火鉢を後先考えずに売ってしまい寒くて困っているという有様だった。
そんな甚兵衛が商売を続けられるのも、抜け目ない女房がいるからだった。
ある日、甚兵衛は古く汚い太鼓を安く仕入れてくるが、それを見た女房はまた売れそうにないものを仕入れてきたと甚兵衛に嫌味を言う。
甚兵衛は丁稚の定吉に店先でハタキをかけるよう言いつけるが、定吉は調子に乗って太鼓をドンドコと叩いて遊び始める。
そのため、甚兵衛が定吉を注意していると、一人の侍が店に駆け込んで来て、先程聞こえた音の太鼓をぜひ屋敷に持ってきて欲しいという。
聞けば、侍はさる大身の武家である赤井御門守に仕えており、たった今、赤井がこのそばを通っている最中に、その太鼓の音が耳に入り、大変気に入ったということであった。
侍が去った後、甚兵衛は喜ぶが、妻はこの汚い太鼓が本当に売れるのかと疑い、むしろ、実物を見た殿様が怒って甚兵衛を庭の松の木に縛り付けるのではないかと軽口を言う。戦々恐々としながら甚兵衛が屋敷に太鼓を持参すると、それを見た殿様はすぐに気に入り買いたいと申し出る。
殿様によれば、この太鼓は、火焔太鼓という国の宝といって差し支えない一品だという。
そして、売値はいくらかと問う家臣とのしばし問答の末、300両と決まり、あまりの大金に甚兵衛は150両まで数えたところで泣き出す始末だった。
ほくほく顔で店へと帰ってきた甚兵衛は300両で売れたと女房に報告し、信じない彼女の前に小判を積み上げる。
ようやく事実だと知った女房は、甚兵衛を褒める。
そして、興奮冷めやらぬ2人は次は何を仕入れるかという話になり、やはり音の出るものがいいという事になって、甚兵衛は火の見櫓の半鐘を仕入れようと言う。
それに対し女房は言う。
「半鐘はいけないよ、おジャンになるから」
この噺の中に出てくる太鼓は「楽太鼓」と呼ばれる雅楽に使う打楽器で、平たい形状を持ち、垂直に立てて演奏するのが特徴。
3メートルを越える巨大なものから、神社・仏閣で使われる持ち運びにも適した小型のものまで様々な大きさがあるそうです。
この噺は、江戸時代から伝わる小さな噺を、明治末期に初代三遊亭遊三が少し膨らませて演じた。
この遊三の高座を修行時代に楽屋で聴き覚えた五代目古今亭志ん生師匠が、昭和初期に多量のくすぐりを入れるなどして志ん生の新作といってもよい程に仕立て直し、現在の形としたもの。
そういう意味で、古今亭のお家芸になっている訳です。
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