乱志十八番⑭「一人酒盛」
私の持ちネタで、「一人酒盛」「二番煎じ」「試し酒」が、酔っ払い3題ということになりますな。
酔っ払って、都々逸も出て来て、どれも演っていて楽しい。
元々は上方落語で、酒のみの地を生かした六代目笑服亭松鶴師匠の十八番でした。
東京でこの噺を得意にしたのは、六代目三遊亭圓生師匠。
圓生師匠は、どちらかといえば、根は好人物という人物設定だったのに対し、松鶴師匠のは酒乱そのものだったようです。
大阪では、紙切りや記憶術などの珍芸を売り物にしていた桂南天(1972年83歳で没)という人が得意にし、そのやり方は桂米朝師匠が直伝で継承していたそうです。
米朝師匠のを聴くと、主人公は引っ越してきたばかりの独り者で、訪ねてきた友達に荷物の後片付けまですっかりやらせ、その後「一人酒盛」のくだりに入って行きます。
これも、東西の大きな違いでしょう。
先代の小さん師匠もお演りになっていますが、やはりちょっとストーリーが違う。
やはり、私は三遊亭になってしまいます。
この噺と圓朝との逸話を見つけました。
明治のジャーナリスト・山本笑月(1873~1936)著の「明治世相百話」という本に、明治28年秋、既に引退していた三遊亭圓朝が、浜町の日本橋倶楽部で催された「圓朝会」に出席し、トリで「一人酒盛」を演じたと書かれているそうです。
それによると、圓朝は、「被害者」の男を、後半まったく無言とし、顔つきや態度だけで高まる怒りを表現、圓朝の顔色が青くなって、真実怒っているように見えたそうです。
名人芸ということでしょう。
その後、圓朝の高弟・二代目三遊亭圓橘が最も得意とし、後の六代目圓生師匠は、子どものころ円橘の高座を聴いた記憶と、三代目蝶花楼馬楽の短い速記をもとにしていたようです。
そして、圓窓師匠の高座本は、その圓生師匠の「一人酒盛」をさらに練り上げて、何と、「一人酒盛」を、"一人芝居"風の演出にしてありました。
ですから、私が演った「一人酒盛」は、台詞を語るのは一人だけ。
これから仕事に出かけようという時に、急用だからとのみ友達の熊五郎に呼び出された留さん。
無理して来てみると、たった今、上方に行っていた知人から、土産に酒をもらったから、二人でのみたいと、誘ったという。
造り酒屋から直接、一升だけ分けてもらった酒の元(原酒)で、めったに手に入らないいい酒とか。
本当なら全部あげたいが、ほかに一軒世話になった家があって、そこへ半分持っていかなければならないから、五合で勘弁してくれと、置いていったという。
飲み友達は大勢いるが、留さんは一番気が合うから呼んだと、お世辞を言われ、酒に目がなく、お人よしの留公はニコニコ。
いい酒がのめると聞いて、仕事などどうでもよくなった。
熊が、炭火を起こして燗をつけてくれの、魚屋に行って刺し身を見つくろってこいのと、自分をアゴで使い始めたのもいっこうに気にせず、台所の板をひっぺがして漬物を出し、また燗をつけ、のみたい一心でかいがいしく動きまわる。
今か今かと、のめと言ってくれるのを待っているのだが、熊、一人でガブガブのみ、勝手な御託ばかり並べ立てるだけ。
ついにがまんしかねて「うまいかい?」と、せいいっぱいのカマをかけても、グイグイ一息にのみ干してから「のんでるときに、何か言っちゃいけねえ」と、耳にも入らない。
「いい酒だね、うまくって、酔い心地がよくって、醒めぎわがいい。七十五日どころか、三年ぐらい生き延びちゃった。おい、もう一度燗をつけてくれ」
いっしょにのみてえのは留さんだけだと、繰り返すので、ついまたつけてやってしまう。
そのうち刺し身をムシャムシャ食いだし、これも独り占め。
そろそろ完全にベロベロになってきて、何かうたえと、からむからぶつくさ言うと「なにもそもそ言ってるんだよォ。酒のんだら、のんだ心持になんなきゃいけないよォ」
留、カッカしてきて燗番を忘れ、酒が沸騰。
熊、どじ助の間抜け、こんなに煮っくりかえしちまってと毒づきながら、酒をフウフウ吹きながらのむ。
そこで五合はおつもり(終わり)。
無冠の太夫おつもり、などと一人駄洒落で悦に入り
「一人でのんじゃもったいないから、おめえを呼んでやったんだ。ありがたく思え。どうだ、うめえだろう」などと言うに及び、留の怒りが爆発。
「なにォ言いやがんでえ、ベラボウめ。うめえもまずいもあるかい。忙しいのに呼びに来やがって、てめえ一人で食らいやがって。てめえなんぞとは、もう生涯付き合わねえや。つらあ見やがれ馬鹿野郎ッ」
畳をけり立てて帰ってしまう。
隣のかみさんがのぞいて
「ちょいと熊さん、どうしたんだよ。けんかでもしたのかい?」
「うっちゃっときなよ。あいつは酒癖が悪いんだ」
・・・この噺は、3回高座にかけています。
◇2014年9月「千早亭落語会」
http://ranshi2.way-nifty.com/blog/2014/09/post-7688.html
◇2014年10月「深川三流亭」
http://ranshi2.way-nifty.com/blog/2014/10/post-8c01.html
◇2015年9月「学士会落語会」
学士会落語会の創立10周年記念落語会でした。
・・・この噺も、大切な、大切な噺です。
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