乱志十八番⑱「怪談牡丹燈籠」
さて、「金願亭乱志十八番一覧」も、今回が殿(しんがり)、主任(トリ)ということで、三遊亭圓朝作「怪談牡丹燈籠」です。
…なんて言うと、あの超長編を語ったように思われますが、その短編の一部分のさらに抜き読みというところだということで、ご了承ください。
「牡丹燈籠」は、現代では「四谷怪談」や「皿屋敷」と並び「日本三大怪談」と称せられています。
中でも、広く知られているのが、お露の亡霊に取り憑かれた新三郎の悲劇です。
・・というか、これをもって「牡丹燈籠」の全容だと思われることもあります。
しかし、これは、本来の長編から前半の中心部分を切り取って仕立て直した短編にあたりますから、「忠臣蔵」で言えば「外伝」のような存在かもしれません。
浪人の萩原新三郎は、ふとしたことから旗本飯島平左衛門の娘、お露と知り合う。
お互いに一目惚れしたふたりは理無い仲となり、お露は夜ごと牡丹灯籠を下げて新三郎の元を訪れ、逢瀬を重ねる。
しかし、お露の正体は怨霊/亡霊だった。
日ごとやつれてゆく新三郎に旅の修験者/寺の和尚が真実とお札を授け、家中の戸にこれを貼って期限の日まで籠もり、夜が明けるまで決して出てはならない、と告げる。
言われたとおりに新三郎が閉じ籠もっていると、毎晩お露は家の周りを回りながら、中に入れず恨めしげに/悲しげに呼びかけてくる。
最終日、新三郎は、朝になったと騙されて/命よりお露への想いを優先して、自らお札を剥がして外へ出る。
・・・この怪談は、長編人情噺の形をとっており、多くの部分に分かれています。
六代目三遊亭圓生師匠は、このお露と新三郎の出会いを「お露新三郎」、お露の亡魂が新三郎に通い祟りをなすくだりを「お札はがし」、伴蔵の悪事の下りを「栗橋宿/おみね殺し」「関口屋のゆすり」にそれぞれ分けて演じています。
私のは、圓窓師匠の高座本「牡丹燈籠・下駄の音」としてまとめられたもので、20~25分程度のものです。
お露と新三郎の恋物語を、怪談風にまとめ、お札はがしのような因縁噺の要素は入っていません。
この噺、私の語り口調に合ったものか、「深川三流亭」での初演以来、何度も高座にかける機会に恵まれました。
口演回数でいえば、「花色木綿」「浜野矩随」に次ぐ回数になるかもしれません。
指折り数えただけでも、両手に近くなるほどですから。
ネタ下ろしの時の「深川三流亭」
南大塚ホールでの「おひろめ寄席」
千早亭早千さんとの二人会「烏楠落語」
そして、「学士会落語会・納涼寄席」
私がこの噺にチャレンジしたきっかけは、圓窓師匠の創作「揺れるとき」の存在がありました。
この噺の劇中劇に、この駒下駄のシーンが入っていたんです。
「揺れるとき」で、そのごく一部を演じて、それならと、師匠の高座本で稽古を始めました。
原作は長講で、しろうと風情がやらせていただく場はありませんが、師匠の高座本なら、コンパクトにまとまっていて、牡丹燈籠も駒下駄の音も、しっかり伝えることが出来ますから。
圓朝の「怪談牡丹灯籠」の速記本は22の章に分かれています。
各章の概要をまとめたものがありました。
1.飯島平太郎(のちの平左衞門)、刀屋の店先で酒乱の黒川孝藏に絡まれ、斬り殺す。(「発端/刀屋」)
2.医者の山本志丈の紹介で、飯島平左衞門の娘・お露と美男の浪人・萩原新三郎が出会い、互いにひと目惚れする。(「臥龍梅/お露新三郎」)
3.黒川孝藏の息子・孝助が、父の仇と知らず、飯島家の奉公人になる。平左衞門は気づいたが、黙って孝助に剣術を教える。
4.萩原新三郎、お露のことを想い、悶々とする。店子の伴蔵と釣りに出かけ、お露の香箱の蓋を拾う。
5.飯島平左衞門の妾・お国、平左衞門の留守中に隣家の息子・宮邊源次郎と密通。黒川孝助が見咎め、喧嘩になる。
6.死んだと聞いたお露が萩原新三郎の前に現れる。
7.相川新五兵衞が飯島平左衞門宅を訪れ、自分の娘・お徳と黒川孝助との養子縁組を持ちかける。
8.人相見の白翁堂勇斎が萩原新三郎宅を訪ね、死相が出ていると告げる。お露が幽霊であることがわかり、仏像とお札で幽霊封じをする。
9.宮邊源次郎とお国、邪魔な黒川孝助を消すため、一計を案じるが、失敗に終わる。
10.伴蔵と妻のお峰、百両で萩原新三郎の幽霊封じの仏像とお札を取り外してやる、と幽霊のお露に持ちかける。
11.飯島平左衞門の金百両が何者かに盗まれる。お国はこれを利用し、黒川孝助が疑われるように工作する。
12.伴蔵と妻のお峰、幽霊から百両を受け取り、萩原新三郎の身辺から仏像とお札を取り去る。(「お札はがし」)
13.飯島平左衞門の機転と計らいで黒川孝助の濡れ衣は晴れたが、孝助は平左衞門を間男の宮邊源次郎と間違えて刺してしまう。平左衞門は、自分が孝助の父の仇であることを告げ、孝助を相川家へ逃がす。(「孝助の槍」)
14.萩原新三郎死亡。
15.飯島平左衞門は深手を負いながらも、宮邊源次郎を殺しに行くが、反対に殺されてしまう。源次郎とお国は飯島家の金品を盗んで逃走する。黒川孝助はお徳と祝言をあげるが、亡き主人・平左衞門の仇を討つため源次郎とお国を追う。
16.萩原新三郎の葬儀を済ませたのち、伴蔵と妻のお峰は悪事がばれるのを恐れて、伴蔵の故郷・栗橋に引っ越す。
17.伴蔵は幽霊にもらった百両を元手に荒物屋「関口屋」を開き、成功し、料理屋の酌婦と懇ろになる。酌婦は、飯島平左衞門の元妾のお国だった。伴蔵は、お国との仲を咎めた妻のお峰を騙して殺す。(「栗橋宿/お峰殺し」)
18.死んだお峰が伴蔵の使用人たちに乗り移り、伴蔵の悪事をうわ言のように喋り出したので、医者を呼んだところ、その医者は山本志丈だった。事の次第を知った山本は伴蔵にお国の身の上を暴露する。お国の情夫宮邊源次郎が金をゆすりに来るが、逆に伴蔵に追い返される。伴蔵は栗橋を引き払い、山本と江戸に帰る。(「関口屋」)
19.仇が見つからず、孝助はいったん江戸へ戻り、主人が眠る新幡随院を参り、良石和尚に会う。婿入り先の相川家に戻ると、お徳との間に息子・孝太郎が生まれていたことを知る。
20.伴蔵は悪事の発覚を恐れて山本志丈を殺すが、捕えられる。孝助は良石和尚の予言に従い、人相見の白翁堂勇齋を訪ね、そこで偶然、4歳のときに別れた母親おりえと再会する。すると、孝助が探していたお国が、母親の再婚相手の連れ子であり、源次郎とともに宇都宮に隠れていることを知る。
21.母おりえがお国と源次郎の隠れ場所に手引きしてくれるというので孝助は宇都宮に出向くが、おりえは、夫に義理立ててお国と源次郎に事の次第を話し、2人を逃す。
22.母おりえは孝助に事の次第を話し、自害する。孝助は二人を追い、本懐を遂げる。
・・・発端から大団円まで、圓朝得意の因縁・怪談が続きます。
私の持ちネタでは、「怪談牡丹燈籠」「猫怪談」「笠と赤い風車」ず、「怪奇3題」ということになるでしょう。
以上、「金願亭乱志十八番」を紹介して来ました。
実は、続編で「三流亭流三十八番一覧」も書いていただけるそうです。
まだ確定ではありませんが、以下の噺を書いていただこうと思います。
順不同です。
「三方一両損」「三味線栗毛」「千早振る」「鬼子母神 藪中の蕎麦」
「救いの腕」「揺れるとき」「三井の貸し笠」「五百羅漢」「人情八百屋」
「猫怪談」「不孝者」「おせつ徳三郎(刀屋)」「厩火事」「子別れ」「長短」
「短命」「蒟蒻問答」「子ほめ」・・。
さらに、第3弾も書いていただけるよう、持ちネタ(しかも得意な)を増やして行きたいと思います。
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