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2019年2月16日 (土)

「厩火事」のイラスト

昔、「お崎さんは、理想の女房像だ」などと言っていました。
男の身勝手な空想だと思います。
これ自体、今やセクハラだと言われるかもしれません。
厩火事のイラスト
働きがあって、面倒見が良くて、かわいげのある女房なんて、そうザラにはいません。
男には、プライドさえ捨てれば、紐のような生活がしてみたいという部分があると思いますから、お崎さんは、理想の女房におもえるという訳です。
髪結いで生計を立てているお崎の亭主は文字通り「髪結いの亭主」。
怠け者で昼間から遊び酒ばかり呑んでいる年下の亭主とは口喧嘩が絶えないが、しんから愛想が尽き果てたわけではなく、亭主の心持ちが分からないと仲人のところに相談を持ちかける。
話を聞いた仲人は、孔子が弟子の不手際で秘蔵の白馬を火災で失ったが、そのことを咎めず弟子たちの体を心配し弟子たちの信奉を得た話と、瀬戸物を大事にするあまり家庭が壊れた武家の話をする。
そして目の前で夫秘蔵の瀬戸物を割り、どのように反応するかで身の振り方を考えたらどうかとアドバイスをする。
帰った彼女は早速実施、結果夫は彼女の方を心配した。
感動したお崎が「そんなにあたしのことが大事かい?」と質問すると、「当たり前だ、お前が指でも怪我したら明日から遊んでて酒が呑めねえ」

・・・最後の台詞の本音、重きは、一体どこにあるのかです。
「色々言っちゃあいるが、やはり亭主は私のことを心配している(愛している)んだ」と思う人は、女性に多いかもしれません。
だから、この噺をやりたがる。
しかし、男の本音は違う。
「確かに心配はするが、それは、自分が遊んで酒が飲めなくなることが一番心配なんだ」。
昔の男尊女卑の時代に、男が、男を主人公に、男の視点で作られたのが落語です。
その源流は、まだしっかりと流れていますから、女性もそれを理解した上で、この噺の解釈をして欲しいと思います。
オチの台詞を言う亭主の口元は、「への字」ではなくて、片方の口元は上を向いて(うすら笑いをして)いるということです。
この噺は、古く文化年間(1804~18)から口演されていたようです。
演題の「厩火事」は「論語」郷党篇十二から。
厩(うまや)焚(や)けたり。 子、朝(ちょう)より退き、「人を傷つけざるや」とのみ言いて問いたまわず。
明治の速記では、初代三遊亭遊三、三代目柳家小さんのものが残っています。
戦後は八代目桂文楽師匠が、お崎の年増の色気や人物描写の細やかさで、押しも押されぬ十八番としました。
一方で、もう一人の名人の五代目志ん生師匠も、お崎さんのガラガラ女房ぶりで沸かせました。

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