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2019年2月12日 (火)

乱志十八番⑬「二番煎じ」

聴くのと演るのとの違いを教えてくれた、とても難しい噺でした。
でも、とても楽しい噺です。
酒を飲んで、熱い鍋をつつくことが出来るんですから。
私にとっては、"脱・人情噺"の初期のチャレンジでした。乱志十八番「二番煎じ」
原話は、1690(元禄3)年に江戸で出版された小咄本「鹿の子ばなし」の「花見の薬」。
これが同時期に上方で改作され、「軽口はなし」の「煎じやう常の如く」になり、冬の夜回りの話となったようです。
従って、はじめは上方落語の演目として成立。
東京へは大正時代に五代目三遊亭圓生が移したと言われます。
上方では初代桂春團治、二代目桂春團治、二代目露の五郎兵衛らが、東京では、六代目春風亭柳橋、八代目三笑亭可楽、三代目三遊亭小圓朝が得意とした。
桂宗助の高座名は、この登場人物の名に由来するそうです。
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圓窓師匠は、八代目可楽師匠が印象に残っているそうです。
先代可楽のこの噺が印象に残る。
師の風貌、声から冬の寒そうな江戸の街を想像できて、聞いていて嬉しさが込み上げてきたものだ。
役人に詰問されるたびに、みなが責任を転嫁するため、ことごとに「惣助さんが」「惣助さんが」と言うその間と惣助さんの困惑顔は他の噺家の追従を許さなかった。

しかし、私は、やはり古今亭志ん朝師匠のがいいですね。
「自身番」というのは、町内の防火のため、表通りに面した町家では、必ず輪番で人を出し、火の番、つまり冬の夜の夜回りをすることになっていました。
といっても、それはタテマエで、たいてい、「番太郎」と呼ぶ番人をやとって、火の番を代行させることが黙認されていました。
ところが、この噺はそろそろ物情騒然としてきた幕末の設定ということで、お奉行所のお達しで、やむなく旦那衆がうちそろって出勤し、慣れぬ厳冬の夜回りで悲喜こもごもの騒動を
引き起こします。
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火事は江戸の華で、特に真冬は大火事が耐えないので、町内で自身番を置き、商家のだんな衆が交代で火の番として、夜巡回することになった。
寒いので手を抜きたくても、
定町廻り同心の目が光っているので、しかたがない。
そこで月番のだんなの発案で、二組に分かれ、交代で、一組は夜回り、一組は番小屋で
酒をのんで待機していることに決めた。

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最初の組が見回りに出ると、凍るような寒さ。
みな手を出したくない。
宗助は提灯を股ぐらにはさんで歩くし、拍子木のだんなは両手を袂へ入れたまま打つので、全く音がしない。
鳴子係のだんなは前掛けに紐をぶら下げて、歩くたびに膝で蹴る横着ぶりだし、金棒持ちの辰つぁんに至っては、握ると冷たいから、紐を持ってずるずる引きずっている。
誰かが「火の用心」と大声で呼ばわらなくてはならないが、拍子木のだんなにやらせると
低音で「ひィのよォじん」と、謡の調子になってしまうし、鳴子のだんなだと「チチチンツン、ひのよおおじいん、よっ」と新内。
辰つぁんは辰つぁんで、若いころ勘当されて吉原の火廻りをしたことを思い出し、「ひのよおおじん、さっしゃりましょおお」と廓の金棒引き。
一苦労して戻ってくると、やっと火にありつける。
一人が月番に、酒を持ってきたからみなさんで、と申し出た。
「ああたッ、ここをどこだと思ってるんです。自身番ですよ。役人に知れたら大変です」とはいうものの、それはタテマエ。
酒だから悪いので、煎じ薬のつもりならかまわないだろうと、土瓶の茶を捨てて「薬」を入れ、酒盛りが始まる。

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そうなると肴が欲しいが、おあつらえ向きにもう一人が、猪の肉を持ってきたという。
それも、土鍋を背中に背負ってくるソツのなさ。
一同、先程の寒さなどどこへやら、のめや歌えのドンチャン騒ぎ。
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辰つぁんの都々逸がとっ拍子もない蛮声で、たちまち同心の耳に届く。
「ここを開けろッ。番の者はおらんかッ」
慌てて土瓶と鍋を隠したが、全員酔いも醒めてビクビク。
「あー、今わしが『番』と申したら『しっ』と申したな。あれは何だ」
「へえ、寒いから、シ(火)をおこそうとしたんで」
「土瓶のようなものを隠したな」
「風邪よけに煎じ薬をひとつ」
役人、にやりと笑って
「さようか。ならば、わしにも煎じ薬を一杯のませろ」
しかたなく、そうっと茶碗を差し出すとぐいっとのみtt
「ああ、よしよし。これはよい煎じ薬だな。ところで、さっき鍋のようなものを」
「へえ、口直しに」
「ならば、その口直しを出せ」
もう一杯もう一杯と、
酒も肉もきれいに片づけられてしまう。
「ええ、まことにすみませんが、煎じ薬はもうございません」
「ないとあらばしかたがない。拙者一回りまわってくる。二番を煎じておけ」

・・・実は、この噺は、「千早亭永久」で、2016年3月に「千早亭落語会」で初演しました。
千早亭落語会大盛況!
再演の準備をしているところです。
千早亭落語会大盛況!
十八番一覧の中、「一人酒盛」と「試し酒」とで、「乱志の酔っ払い3題」として、これまた財産になっています。
この噺で難しかったのは、「謡」と「都々逸」です。
それから、登場人物が多いので、場面設定が大切です。
・・・この噺、今までの持ちネタの中で、難易度はかなり上位になると思います。

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