落語「あたま山」
珍しい噺の部類に入るでしょう。
同時に、私にとってはトラウマの噺です。
と言うのも、私が最初にチャレンジした噺なんです。
落研には、私も含めて同期が5人でした。
先輩から高座名と最初の噺を決めてもらいます。
「浮世床」「孝行糖」「転失気」「桃太郎」・・と、同期の噺が決まりましたが、最後に残った私の噺が、なかなか決まりません。
暫く沈黙が続いた後、突然、4年生の孤狸亭酔狂師匠が、「あたま山」と言いました?
勿論、初心者の私は知りようもない噺。
「奇想天外で面白くて、大きな噺だよ」と酔狂師匠。
いい加減決めたがっていた他の先輩方も、無責任に「うん、そうだ!」・・・。
という具合に決まった、記念すべき?私の初演の噺でした。
「頭山(あたまやま)」は落語の演目の一つ。
「頭山」は江戸落語での名称で、上方落語では、「さくらんぼ」の題名で演じられている。
主にケチの噺のマクラとして使われる小噺だが、八代目林家正蔵(彦六)師匠は噺を膨らませて一席噺として演じていた。
・・・そうなんです。
筑摩書房の全10巻の「古典落語」に、林家正蔵師匠の口演筆記が収録されていました。
とにかく、音源も何もなく、聴いたこともなく、ただこの本だけが頼りでした。今となればあるのですが。
https://www.youtube.com/watch?v=RLVfseykAOI
・・・でも、筑摩書房の口演筆記とは全然違っていた気がします。
原話は安永2(1773)年刊「坐笑産」の「梅の木」や、同年刊「口拍子」の「天窓(あたま)の池」。
類話として安永10(1782)年刊「いかのぼり」の「身投」、享和3年刊の黄表紙「いろ見草 浮世の頭木」などがある。
また、青森、岩手、鹿児島などに同趣向の民話が存在した。「徒然草」の「堀池の僧正」に由来する、という説もある。
・・・どうやら、由緒はありそうでした。
あるケチな男が、サクランボを種ごと食べてしまったことから、種が男の頭から芽を出して大きな桜の木になる。
近所の人たちは、大喜びで男の頭に上って、その頭を「頭山」と名づけて花見で大騒ぎ。
男は、頭の上がうるさくて、苛立ちのあまり桜の木を引き抜いてしまい、頭に大穴が開いた。
ところが、この穴に雨水がたまって大きな池になり、近所の人たちが船で魚釣りを始めだす始末。
釣り針をまぶたや鼻の穴に引っ掛けられた男は、怒り心頭に発し、自分で自分の頭の穴に身を投げて死んでしまう。
・・・実にくだらない。
どこが面白くて大きい噺か分からない。
他の同期がくすぐりの多い噺で受けている中で、私1人だけ・・・実に激しく凹みました。
何と言っても、初心者に地噺をやらせるという、実に無責任な選択だったと思います。
半年ぐらいは、高座に上がると「あたま山」。
あれ以来、ほとんどやっていません。
もしかすると、生では1度も聴いたこともないかもしれません。
しかし、この手の噺は、例えば「あたま山」に色々な花見客が繰り出して、歌や踊りを披露する場面では、演者のフリーハンドが発揮出切る訳で、得意な音曲などを入れればどんどん大きな噺に作り上げることも出来ます。
そういう意味で、粋狂師匠が仰った「大きな噺だよ」というのも、あながち嘘でもないかもしれません。
しかし、それにしても・・・、やはり私にとってはトラウマ噺です。
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