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2019年1月23日 (水)

落語「居酒屋」

「居酒屋」といえば、真っ先に浮かぶのは「三代目三遊亭金馬師匠」です。
この噺は、文化3(1806)年刊の笑話本「噺の見世開」中の「酒呑の横着」が原話です。
落語「居酒屋」本来、続編の「ずっこけ」とともに、「両国八景」という長い噺の一部だったようですが、三代目金馬師匠が一席噺として独立させました。
金馬師匠の速記にも、「ずっこけ」をつなげて演じているものもあるそうですから、「ずっこけ」とセットなんですね。
縄のれんが掛かっていて酒樽をイス代わりにして、小僧さんと番頭さんが仕切っている
居酒屋が有ります。居眠りをしている小僧さんに客足のない店です。
盲縞の長半纏、湯屋帰りか濡れ手ぬぐいを肩に引っかけ、頭で暖簾をかき分けて入っ
てきます。
「へ〜ぃ。宮下にお掛けなさぁ〜ぃ」
「立派な大神宮様の下で宮下、駅の名前のようだな」。
「小僧さん、お酒を持ってきてくれ」
「お酒は清(す)んだんですか、濁ったんですか」
「お前は俺のナリを見るな。酒は清んだんだよ」
「上一升ぉ〜」
「チョット待ちなよ。一合でイイんだよ」
「へへへ、これは景気付けです」
「驚いたよ、酒の一升には驚かないが、懐の一升には驚くよ」
「おまちどうさま〜」
「チョト待ってくれ。湯のみを貸してくれ。それでイイ。おいおい直ぐ行くなよ。1回ぐらいお酌
をして行けよ」
「誠に申し訳ありません。混み合いますので、お手酌でお願いします」
「混み合いますと言うけれど、客は俺一人だよ」
無理矢理小僧さんにお酌をさせて指を見ると、
「汚い手だな、ベースボールのグローブみたいだ。でも本革で継ぎ目無しだ。お前の指は親指だけだな、まるでバナナの房みたいだ。でも、ぎっちりと実が詰まっているんだろう。月夜に捕れたんじゃないな」
「カニじゃないですよ」
「こんなに注いじゃって。口からお迎えだ。この酒は酸っぱいな。甘口辛口は知っているが、スッパ口は知らないな。他に酒は無いのか。仕方が無い、もう一杯」。
「ご酒代わり〜」
「お肴は如何ですか」
「誰がいると言った」
「要らないんですか」
「要らないんではないよ。もう少しユックリさせろよ。肴は何が出来るんだ」
早口で「へ〜ぃ できますものは、 汁(つゆ)、柱、鱈昆布、アンコウのようなもの、 鰤(ぶり)にお芋に酢蛸でございます。へ〜ぃ」
「早くてチットモ分からない。もう少しユックリやってくれ」、小僧さんユックリともう一度言った。
「最後の『ぴ〜』と言うのがあって前がよく分からない。何でも出来るんだな。では、『ようなもの』を一人前持って来い」
「そんな事言いませんよ」、もう一度言うと、中で言っていた。
小僧さん笑ってごまかし、これは口癖です。
「酒の代わりだよ」
「ご酒代わり〜イチ〜」
「もう一度『ぴ〜』と言うのをやれよ」
「お品書きは小壁に張ってあります。どれでも出来ますからご覧になってくだ さい」
「では、口上を一人前持って来い」
「それは出来ません。その次からで来ます」
「『とせうけ』は食ったことがないが何だ」
「あれは『どぜう汁』と読むので、濁点が打ってあります。イロハには、濁点を打つとみな音が違います」
「イの字に濁点が付けば何と読む」
歯をむき出しにしたが読めない。
「ロはどうだ、ではマは?」
「点が打てない字ばかりを選ってますよ」
「読めないから、バナの頭に汗かいてるな。鼻の横にテンテンがあるだろ」
「ホクロです」
「『元請け現金に付き貸し売りお断り申し上げ候』を一人前持って来い」
「そんなもの出来ませんよ」。
「お酒の代わりだよ」
「ご酒代わり〜イチ〜。突き当たりの棚に並んでいる物をご覧なさい」
「行くのは面倒くさい。あの棚こっちに持って来い。だめか。赤くなって下がっているのは何だ」
「タコです。 ゆでた物は何でも赤くなるんです。海老でもシャコでも蟹でもなんでも」
「猿のケツもゆでたのか。タコの足は何本あるんだ」
「8本です」
「偉いな。ではイボは幾つある。分からなければ今度数えておけ」、
「大きな口を開いて吊り下がっているのは何だ」
「アンコウです。鍋にしますとあんこう鍋」
「それじゃ、その隣に印半纏に鉢巻をして出刃包丁を持っているのは?」、
「うちの番頭です」「あれを一人前持ってこい。番公(=アンコウ)鍋てえのができるだろう」。
落語「居酒屋」

ついでに、続編「ずっこけ」も。
居酒屋で小僧をいたぶったりして長っ尻をし、看板になってもなかなか帰らない酔っ払いを、たまたま通りかかった友達がやっと連れ帰る。
よろよろして歩けないので、ドテラの襟をつかんでようやく家までひきずっていき、かみさんに引き渡そうとすると、ドテラだけ残って当人が消えている。
あわててさがすと、往来で裸でグウグウ。
かみさんいわく、「よく拾われなかったわねえ」。
・・・さて、江戸市中に初めて居酒屋が現れたのは、 宝暦13(1763)年とされているそうです。
それ以前にも、神田鎌倉河岸の「豊島屋」という酒屋が、田楽を肴に出してコモ樽の酒を安売りしたために評判になったという話がありますが、 これは、正式な店構えではなく、店頭でキュッと一杯やって帰る立ちのみ形式で、酒屋のサービス戦略だったようです。
初期の居酒屋は、看板に酒旗(さかばやし)を立てて入口に縄のれんを掛け、店内には樽の腰掛と、板に脚をつけただけの粗末な食卓を置いて、肴も出しました。
「一膳めし屋」との違いは、一応飯が看板か、酒が主かという点ですが、実態はほとんど変わりなかったようです。
♪もしも嫌いでなかったら 何か一杯飲んでくれぇ♪
の世界とは違って、色気はなかったかもしれません。
柳家はん治師匠が、桂文枝師匠創作の「ぼやき酒屋」という噺をお演りになりますが、よく似た舞台設定の噺で、笑わせてくれます。

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