落語「うそつき村」

うそばかり言って開き直る国もどこかにあるようですが。
文化年間から口演される古い噺だそうですが、特定の原話は分からないようです。

「聴耳草紙」ほかに見られる、各地のホラ吹き民話などを基にしたものでしょう。
この種のホラ話は、世界中に無数に分布していて、うそつきや大風呂敷は人類普遍の病
だという証ことですな。
この噺は、本来は上方落語「鉄砲勇助」で、これが東京に移植され、「弥次郎」と「嘘つき村」の二つに分かれたという説があるそうです。

「神田の千三ツ」と異名を取る、うそつき男。

旦那の家に久しぶりに現れ、信州の方へ行ってきたが、あんまり寒いので湖で鴨の足に氷が張って飛び立てなくなっているのを幸い、鎌で足だけ残して片っ端から刈り取ったとか、
その後に芽が出たのでカモメだとか、早速、並べ放題。

ところが、旦那が、「向島の先に、うそつき村というのがあり、そこの奴らは一人残らずうそをつくが、その中でも、鉄砲の弥八という男は、おまえよりずっと上手だ」 と言うので、千三ツ、名誉にかけてそいつを負かしてみせると、勇躍、うそつき村に乗り込んだ。
早速、村人に弥八の家を聞いたが、さすがにうそつきぞろい。

向かい側の引っ込んだ家だの、松の木の裏だのとでたらめばかりで、いっこうに見当がつかない。

子供なら少しはましかと、遊んでいた男の子に聞くと、「弥八はオレのおとっつあんだ」と言う。
そこで「おまえんとこの親父は、見込みがありそうだと聞いたんで、弟子にしてやろうと江戸から来たんだ」

と、ハッタリをかますと、子供をさるもの、親父は富士山が倒れそうになったのでつっかい棒に行って留守だし、おっかさんは近江の琵琶湖まで洗濯に行ったと、なかなかの強敵。
その上、「薪が五把あったけど、三つ食べたから、おじさん、残りをおあがり。炭団はどうだい」ときたから、子供がこれなら親父はもっとすごいだろうから、とてもかなわないと、千三ツは尻尾を巻いて退却。
「おじさん、そっち行くとウワバミが出るよ」
「なにを言ってやがる」
そこへ親父が帰ってきたので、せがれはこれこれと報告し

「オレか。世界がすっぽり入る大きな桶を見てきた」

山の上から筍が出て、それがどんどん伸びて、雲の中に隠れちまった」
「うん、それで?」
「少したつと、上の方から竹が下りてきて、
それが地面につくと、またそれから根が生えて、雲まで伸びて、また上から」
「そんな竹がないと、世界が入る桶のたがが作れない」
・・・確かに、これも壮大な噺です。
「弥次郎」の方が、もう少しバカバカしさが現実的というか・・。
この手の噺を初めて聴いた時の、なんともいえない爽快感が素敵だと思います。
落語は、座布団に座って演る芸ですが、大道具や小道具や舞台装置がありませんから、座布団の上には、無限の世界が広がっているんですね。
この噺は、芝居では出来ないでしょう。
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