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2018年6月22日 (金)

「ちりとてちん」と「酢豆腐」

「ちりとてちん」で検索すると「酢豆腐」の説明が゜出て来ますから、同じ噺かと思うと、この2つはかなり舞台設定が違う噺です。
ただし、元は「酢豆腐」のようです。
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原話は、江戸時代中期の1763年(宝暦13年)に発行された「軽口太平楽」の一編である「酢豆腐」。
明治時代になって初代柳家小せんが落語として完成させた。
八代目桂文楽が十八番にした。
さらに、三代目柳家小さんの門下生だった初代柳家小はんが改作したのが「ちりとてちん」で、後に大阪へ「輸入」され、初代桂春団治が得意とした。
この「ちりとてちん」は後にもう一度東京へ「逆輸入」され、桂文朝等が使っていたのをはじめ、現在では、柳家さん喬や柳家花緑らも演じており、東京の寄席でもなじみのある噺となっている。

「酢豆腐」は、落語っ子連で越児さんが、そして今は扇子っ子連で竜太楼さんが稽古しています。
「ちりとてちん」と「酢豆腐」
◇酢豆腐
若い者が夏の昼下がり集まっていた。酒は何とかなるが肴は金が無くて算段が出来ない 。
「安くって数があって誰の口にも合って、腹にたまんなくって、見てくれが良くって、しかも衛生に好いと言うのは無いか」、「それは刺身だね。暖かいときに良く、寒いときにもイイ。ご飯にも良いし、酒の肴にもイイ」、「それは銭のある奴の台詞だ」、「私は銭が無くても食う」。
「俺はクロモジを200ばかり買うね。それをくわえていると、ハタから見ても体裁がイイ。歯の掃除も出来て衛生的」。
そんな物肴にならないと叱られる。
「私は違う。ヌカズケの樽をかき回すと、底の方に古漬けが隠れているもんだ。それを細かく刻んで水にくぐらせると、覚弥(カクヤ)の香香と言ってツマミになる」、「出て来いクロモジ野郎。お前と違って古漬けとは粋なことを言うね」、でも、臭くなるとか、匂いが抜けないとか、爪の間にヌカが挟まるとか、誰も出す者が居ない。
そこに、半公が通りかかった。
呼び止めたら、急ぎがあるからと言うのを引き留めて「横町の小間物屋のミー坊、べた惚れだぞ。声かけてやれ。色男、色魔、罪作り、女殺し」、へへへと寄ってきた。
「ミー坊、何か言ってたかい」、「この間、ミー坊に合ったから、『半公に岡惚れしているな』と言ったら赤い顔をすると思ったら『岡惚れしたらどうするの』とドンときたね」、半公グズグズになってきた。
「この町内に他にも男がいるよ。『女なんて、お金が有るからとか、顔がイイからとかではなく、男らしい所に惚れ込んだ』と言ったんだ。その上、『江戸っ子で、人の嫌がることを進んでやるし、立て引きが強い所に惹かれたんだ』と言う」、「俺は神田っ子だ。人に頼まれたことはイヤだとは言ったことは無いんだ」、「そこで、みんなが頼むんだが、『糠味噌出してくれないか』」、「う、う〜、さようなら」、「半ちゃん、あんたは立て引きが強い」、「話がうますぎた。香香は出せないが、それを買う分銭を出すよ。2貫でどうだ」。
それで手打ちになった。
与太郎に預けた豆腐が有ったのを思い出した。
暑い盛り、湯を沸かした釜の中にしまって置いたので、黄色くなって毛が生えてしまった。これを世間では腐ったと言う。
そこに横町の変物、伊勢屋の若旦那が通りかかった。
男だか女だか分からない格好して、知ったかぶりのやな奴と仲間内では評判が悪い。
シャクだからこの腐った豆腐を食わせてしまおうと一計を案じる。
 若旦那を呼び止めて、素通りしてはいけないと部屋に上げた。
町内の女湯では、バカな人気だとおだて上げた。
「眼が赤いとこ見ると、昨夜は『夏の夜は短いね』なんてモテたんでしょう」、「その通りで、初会ぼでベタぼで寝かしてくれない」。
ノロケが終わると本題に入った。
 「貴方は御通家だ。昨今はどんな物を召し上がりますか」、「割烹物は食べ飽きてしまったから、人の食べない物が食べたい」、「ここに到来物の珍味なんだが、何だかわからねえ。若旦那ならご存知でしょう」と見せると、若旦那は知らないともいえないから器を顔の前にすると、眼がピリピリとし、ツーンと酸っぱい匂いがする。「これは食べ物ですか」、「モチリンです。拙(せつ)も一回やったことが有ります」、「これは皆さんの前では食べられない」、「他で恥をかくといけないから、どうぞ食べ方を見せてください。皆も頼め。箸じゃなくてスプーンで如何です」。
若旦那の周りを囲んで食べ方を拝見。
間違った能書きはいっぱい出てくるが、顔の前にはなかなか器が上がらない。
「目はピリピリ、鼻にはツンと来るのが値打ちだね。う〜ん、眼ピリなるものが・・・」、目をつむって、息を殺して一口、急いで口に入れたがたまらず扇子で扇ぎだした。
目を白黒させながら吐き出しそうになるのを無理に飲み込んで、「いや〜、オツだね」、「若旦那食べたね。これは何という食べ物ですか」、「酢豆腐でしょう」、「酢豆腐とは上手いな。若旦那たんとお食べなさい」、「いや、酢豆腐は一口に限りやす」。

・・・想像しただけで、食べたくありません。
「ちりとてちん」と「酢豆腐」
◇ちりとてちん
碁の会を開くことになっていたが、都合で中止になって、その為に誂えた料理が全て余ってしまった。向かいの金さんは世辞が上手いので、呼んで食べて貰うことにした。
「片づけてくれないか」、「丁度食事前で、何か食べたいな〜、と思っていたとこです」、「灘の生一本も有るので・・・」、「ガラスのコップで・・・。そうですか、お酌までして貰って、旨い酒ですね」、「ここに鯛のお刺身があります。どうぞ」、「へぇ〜、これが鯛の刺身、目がないですね」、「刺身だから」、「旨いですね。ウッ、ワサビが利きました。(鼻を摘まみ、頭叩いて、目をしょぼつかせる)。エッ、これが鰻の蒲焼きですか。有るとは聞いていましたが、旨いものですね(美味そうに食べる)。口の中で溶けますね。うま・・・モグモグ」、「食べるか、喋るか、どちらかにしなさい」。
「私も食べたくなった、お清やお膳をこちらに持って来ておくれ。酒は燗をしておくれ。豆腐が食べたいな・・・。何ぃ?10日以上前のものが有る。この温気(うんき)だ、見せてごらん。ダメだ、毛が生えている。捨ててしまいな・・・。アッ、チョと待ちな。唐辛子と一緒に持って来な。(唐辛子をまぶして、むせながらかき混ぜて、ビンに収めた)。六さんを呼んで来ておくれ。貴方の前だが・・・、この男は、屁理屈は言うし、何でも知ったかぶりをするし、旨いと言ったことが無いのだ。一度ギャフンと言わせ、その悪いクセを直してあげようと思うんだ。貴方は隣の部屋から観ていても結構だが、声を出さないように。料理、お酒を持っていって、充分にやって下さい。お酒もダメなら御前もありますから」、「お米のおまんまが有るとは聞いていましたが・・・」、「まぁ、まあ、お隣に・・・」。
「こんばんわ」、「よく来てくれた。碁の会の料理が余ったので食べてくれないか。お清と二人で食べきれないんだ。六さん腹の具合は・・・」、「食べたばかりだから・・・。どうしてもと言うんなら、詰められますが・・・」、「そうかい。膳を運ばせるよ。酒も灘の生一本だから旨いよ」、「灘と言ったって、水で薄められて、水っぽい酒になって、我々が飲む時は酒っぽい水になってるんだ。チョットで良いですよ。まずいと困るから」、「どうだい」、「これなら貰うよ」、「鯛の刺身があるんだ」、「腐っても鯛だ。刺身はマグロに限りますな。・・・良いですよ、食べますから」、「蒲焼きもあるよ」、「鰻と言ったって、養殖じゃ〜な〜、天然物でないと旨くない」。
「食通の貴方に合わなくて申し訳なかったな。アッ、そうだ、貰い物で台湾の『ちりとてちん』が有るんだ。あんた知っている?」、「・・・、あ〜、あれね、知っていますよ。台湾にいた時は良くやっていました」、「好き好きがあって、大変高価な物だそうだね」、「そうですよ」、「食べられるんだったら、食べ方を教えて欲しい。私は この匂いが駄目なんだ」。
「そうそう、これなんですよ。赤くてドロッとしたこれ、良く手に入りましたね」、「私は匂いがやだな」、「これは匂いで食べるんですから」、「クサヤもあるが、匂いがたまらないな、食べればオイシイと言うんだが・・・」、「これの粉末もあるんですよ」、「どうやって食べるんだい」、「パラパラとかけても良いですし、芥子のように研いでも良いですよ」。
「(むせながら、皿に小分けしてビンから出す)。どうぞ」、「これさえ有れば、もう何も・・・(むせて)ウグッ、(目をしばたたかせ、皿を下に置いて)これは勿体ないから、むやみに食べちゃ〜」、「良いんだよ、我が家では誰も食べないんだ。食べ終わったら持って帰っても良いんだよ」、「でも・・・、こんな贅沢なもの、家に帰って肴にして食べます」、「誰も食べないから、ここで食べて下さいよ」、「これが食べられたら、向では一人前、食通と言われます」、「その食べ方を教えて欲しいな」、「食べたら勿体ない」、「アッ、貴方は食べたことないんでしょう」、「バカ言っちゃいけない。私は台湾で朝に夕に・・・。ジャ〜ぁ、食べ方をご覧に入れます」。
皿を持って口元に近づけたが、目はピリピリ、匂いで咳き込むは・・・、「これが旨さの素なんです。頭のてっぺんまでツーンと来るのが良いんです。先ず、鼻を摘まんで、目をつむって、ワキの方から・・・」、本当に口に流し込んだが、口に入った『ちりとてちん』を飲み込めず、目を白黒。
(顔が真っ赤になって)やっとの事で飲み込むが、直ぐに口に戻ってきてしまう。
粋がって無理に飲み込むが、やはり喉から戻ってきてしまう。
口の中の『ちりとてちん』を飲み下すのに、手真似で酒を要求。
「酒かい。分かったよ。でも難しいんだな。喉を行ったり来たり」、酒をもらうと、すぐさま口に入れて『ちりとてちん』を飲み下す。
「ウヘッ」、と唸ってもう一口酒を流し込んで、口をムグムグやってやっと落ち着いたが、泣きそうな声で、「オェ〜ッ、ウウワァ〜。旨かった」。
「それは良かった。六チャン、それはどんな味がするんだい」、「丁度、豆腐が腐ったような味です」。

・・・ということで、かなりストーリーが違います。
ただし、腐った豆腐を無理やり食べさせるところは共通。
私は、個人的には、「ちりとてちん」の方が好きかもしれません。

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