噺の中の距離感
師匠が稽古で、「ここは"瞬間移動"で」と仰ることがあります。
落語は、一人語りの演芸ですから、時間や空間も一人で操ることが出来ます。
場面転換や時間の経過を表現する際に、上方落語では見台(釈台)に置いた拍子木などを鳴らしますが、江戸落語の場合は、仕草でやることになります。
"瞬間移動"というのは、両手を座布団の両側に軽く置いて、少し身体を前に傾けて、すぐに元の姿勢に戻ります。
師匠はこれを"瞬間移動"と名付けています。
要するにテレポーテーション。
これをやれば、どこにでも行ける訳です。
まぁ、それは良しとして、とは言え、落語のリアリズムも必要ですから、テレポートした場所と場所の位置や距離をしっかり踏まえて演じないといけません。
「天狗裁き」の空を飛翔する天狗、「愛宕山」の谷から飛んで上がって来る幇間の一八みたいなダイナミックなものから、隣の部屋ぐらいのものまで色々です。
舞台設定をする上で、場面間の距離を認識する作業も、噺を作り上げるのに大切だと思います。
例えば、神田に住んでいる職人が、吉原や品川に女郎買いに行く時の距離。
大川を挟んだ浅草と向島や本所との距離。
谷中の三崎坂から根津、不忍池までの距離。
噺の全てに、この距離感の認識は必要だと思います。
もっと細かいことを言えば、例えば、「牛ほめ」で、与太郎の家から伯父さんの家までどれぐらいなのか。
その距離を、噺では"瞬間移動"しますが、どこかで、その距離感を表現する必要もあるかもしれません。
だから、明確に地名が出て来る噺はともかく、そうではない噺も、自分なりに距離感を決めておくことが大切なのかもしれません。
噺を立体的に、奥行きのあるものにするために。
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