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2017年1月16日 (月)

人情八百屋と師匠と談志師匠

師匠の「人情八百屋」の高座本の巻末に、「談志さんの稽古方法」という一文が載せられています。
ちょうど今から3年前の、2014年1月11日付になっています。
私が今回この噺に挑戦するきっかけにもなりました。
その全文をご紹介したいと思います。
nn
☆談志さんの稽古方法   2014.1.11(土) 圓窓 記
この噺は、2011.11.21日に物故した七代目立川談志さんから教わった唯一のもの。
あたしからこの噺を希望したのである。
あれは、あたしが真打になって間もなくで、今はないが東宝演芸場の楽屋の空いている小間で稽古を付けてもらった。
あたしが正座して録音機器を前に置いてセットすると、談志さんは胡坐をかくと噺し始めた。
このときの稽古を思い出すと、実に面白い。
談志さん丸出しなのである。
噺を始めたなと思うと、止まるのである。
解説しちゃうのである。
「ここは、こうやってもいいし、あぁ、やらなくてもいいや、あぁ、うん」とか、「この先は忘れちゃったよ、あぁ、久しく演ってねぇから、うん」 「自分で拵えてみなよ、うんうん」などと、それはそれは、解説の方が抜群に面白く、「あぁ、そうなのか」と関心してしまった。
後年、談志さんは自分の高座もそんな傾向になったようだ。
途中で止めて、「志ん生はこう演っていた」「圓生はこう演っていた」と例を持ち出して自分の噺との検討を始める。
ときとしては、途中で胡坐をかいて雑談に入ったり、「今日はもうやめよう」と、さっさと高座をおりちゃったりする。
こういうときとしての行動はけして褒められたものではない。
しかし、談志ファンにとってみると、「談志らしいよ」「これぞ噺家だ」と許せるようで、大喜びする人も増えてきた。
多くのブレーンに囲まれていた談志さんだったが、「そういうことは駄目です」と諫言する人は一人もいなかったのだろう。
マスメディアも奇行はニュースになるからと、面白がって追っ掛けた。
ついでに、談志さんの芸の評をさせてもらうと、地噺には生き生きとした煌くものがあったほどだから、漫談はどんなテーマでも他者より抜きん出ていた。
タレントとしての談志さんは超一流だと思う。
こう書くのだから、あたしは噺家としての芸や人には批判的な噺家の一人かもしれない。
あたしは学生の頃から、若手だった談志さん(その頃、小ゑん)の切れ味のいいには感心をしていたものだった。
でも、噺家になったあたしは談志さんの周りでチョコチョコする性格は持ち合わせていなかった。
しかし、どういうわけか、談志さんからは「掘り出し作業、いいね。どんどんやんなよ」と直接言われたこともあるし、この「人情八百屋」のあたしの工夫した落ちについて、「圓窓の落ちもなかなかいいよ」との褒め言葉が間接的に耳に入ってきたりもした。
世間が圓生の名跡問題で騒いでいたとき、「七代目は圓窓でいいじゃねぇか」と発言したらしいと、風の噂に聞いている。
ちょいと脱線気味になっちまったが・・・、この噺、名古屋での「圓窓ご百噺を聞く会」と二、三の勉強会で演っただけで、七、八割は内容さえも忘れかけていた。
高座本「人情八百屋」を作成するにあたって考えを巡らせてみると、やはり談志さんは 、あたしが感謝をしなければならない噺家の一人かもしれない。
噺を教わったんだもの・・・・。
談志さんはこの噺、浪曲から移入させたようだが、この手のものは講釈にもあったであろう。
あたしは浪曲のようなお涙頂戴型ではなく、落語の人情噺として、あたしも涙するように構成した。
談志さんの落ちは「火付け」と「躾」、あたしは「仕付け」と「躾」の地口にした。
それも単なる地口で終わらせたら、言葉遊びの範疇に過ぎないので、その地口にも登場人物の感情を籠もらせたいと思って工夫したつもりなのだが・・・・。

https://www.youtube.com/watch?v=u6Wm2X-cj24
若き日の圓窓師匠が、談志師匠に稽古を付けてもらった様子が、手に取るようにわかります。
そして、談志師匠の芸、落語界での位置、そして功罪・・・・。
圓窓師匠にご指南をいただくようになって10年。
ちょっとしたご縁からではありましたが、僭越ながら、師匠と落語に対するメンタリティがぴったりだった幸運を感じます。
落語をこよなく愛する師匠が仰るのは、素晴らしい噺や話芸を受け継いで行くのには、プロもアマもないということだと思います。
談志師匠から教わって圓窓師匠が再構成した噺を、不肖ながら流三が受け継いで行く。
先日の高座では、談志師匠の出囃子「木賊刈り」を使いましたが、気がついてくださった方はいたでしょうか?
三遊亭ではなく三流亭ですが、私は圓窓師匠の噺を語り継がせていただきたいと思いました。
師匠に10年師事して来て、生意気かもしれませんが、そういう考えやスタンスもありだと思うようになりました。

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