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2017年1月16日 (月)

不孝者

3月の「千早亭落語会」では、「不孝者」という、これまたあまりポピュラーではない噺にチャレンジします。
元々は上方の「茶屋迎い」という噺を、六代目三遊亭圓生師匠が、舞台を江戸に移して改作したものだそうです。
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https://www.youtube.com/watch?v=oFpZ9VLiyUs
下男の清蔵が帰ってきた。
「若旦那と日本橋の山城屋さんに行ったのだが、謡いの会があるからそれを聞いたら帰るので、 遅くなるので私だけ先に帰ってきた。後でお迎えに行きます」
「素謡いか、楽器が入るのか?」
「太鼓が入って派手にカッポレなどやっていました」
「顔を見せなさい。顔に”お金をもらって嘘を吐いています”と書いてある。顔をこすってもダメだ。2分もらったな」
「いいや、1分だ」。
「上がった場所は柳橋か。橋を渡った先の”住吉”か」
清蔵と着物を交換して頬被りをして、下男として柳橋の住吉にやって来た。
迎えに来たと告げたが、若旦那はもう少し遊びたくて、下の空き座敷に旦那をほうり込んだ。
女中が若旦那の差入れだとお銚子と肴を事務的に持ってきた。
「バカ野郎。親をこんな部屋に通して。この酒だって若旦那からだと言うが、回り回って私の懐から出るんだ。あれは私を清蔵だと思っている、かぶり物を取った時の驚いた顔を見るのが楽しみだ」
突然、一人の芸者が部屋を間違えて入りかけてきた。
「ちょっと待ちなさい。お前”琴弥(きんや)”ではないか」
「・・・まぁ〜、旦那じゃありませんか。どうしたんですその格好は」
「これには訳があって・・・、ま、襖を閉めてこちらにお入り。嬉しいね、ここでお前に会えた上、お酌してもらえるとは・・・。綺麗になったね」
「やですよ。私はお婆ちゃんです」
「お前がお婆ちゃんなら、ここの芸者はみんなお婆ちゃんだ。それより青臭さが取れて、
大人の魅力がいっぱいだ。ところで、今は世話をしてくれる旦那がいるのだろ」
「いえ、私は一人ですよ」
「それは芸者の決まり文句だ。いいよ、ここは二人っきりだから」
「怒りますよ。私を捨てたのは旦那ですよ」
「捨てませんよ。分かれたのは本当だが・・・。ま、聞いておくれ。あの当時は請け判を押してしまったせいで、店が危なく人手に渡る所だった。間に入ってくれた人が、こんなときに女を囲っていたのでは周りがほっておかない、それで手切れ金を持たせたが、本当は私が持って来たかった。それでは心が ぐらついてしまうので番頭に持たせた。
お陰で店も立ち直ったが、その心労でどっと床についてしまった。
幸いに、元気を取り戻し、お前に会いたい気持ちが高ぶってきたが、逢って新しい旦那を見せつけられたら、私は苦しい。それできっぱりとお前の事はあきらめた。それ以来遊びも止めて、女っ気は何も無いんだ。ところで、どうしてお前ほどの女に旦那がいないのだ」
「本当は若い旦那が付いてくれたのですが、その男は2.3ヶ月後から遊び始めて、私の心をズタズタにしたのです。これではいけないと別れて、その後は恐くて旦那を持つ気にもなれなかったのですが、女ですね〜、寂しい夜もあるでしょ、悲しいことや辛いことを聞いてくれる人が欲しいのは本当なのです」
「そうか、本当に一人なんだ。分かりました。こう言っちゃなんだが、お前を世話するぐらいの力はある。色気抜きで、お前の相談相手になってやろうじゃ無いか」。
「旦那、嬉しいじゃないですか。昔を思い出しませんか」
「何か有ったかい」
「箱根から湯河原に回って、熱海で梅を見たでしょ。あの梅は忘れませんよ」
「そうだったな。あの頃はお前も側に居てくれて、力もあってドンドン仕事をしたもんだ。これからは仲良くいこうじゃないか。昔馴染みっていいもんだ」
「旦那、今度いつ逢ってくれます?」
「明日はイケナイが明後日にしよう。分かった、そこに行くよ」
「旦那、ホントに約束ですよ」
「それより、私が行ったら若い旦那が出てきたりして・・・。痛いな、そんなとこツネったら」。
しなだれかかる女の化粧の匂いとビンのほつれ毛、島田が傾き、肩に掛かる旦那の手に力が入る。
「お伴さ〜ん、若旦那がお帰りですよ」
「・・・(二階を見上げて)この不孝者」。
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これは難しい噺です。
男と女の柵(しがらみ)を描き、後半はいわゆるラブシーン(濡れ場?のようなもの)もあります。
お互いに、一途に思い合えるなんていいですね。
そして、災難関は、一言で決めなくてはならないオチ。
今まで、私が意図的に避けて来た分野です。
これも、上方→圓生師匠→圓窓師匠→永久・・・という訳。
師匠は高座本を校正されて、
「男と女の、いい噺であるのは言うまでもない。」とブログでコメントされています。
驚いたことに、3年ほど前に、羽織っ子連の要亭貴尾さんが、この噺を演っておられるようです。
当時、ご本人曰く 「女が女を演るって、難しいですね」だったと、師匠のブログ。
師匠が、「男遊びをしなくちゃね」と冗談で返す。
貴尾さんは、「救いの腕」「三井の貸し傘」など、持ちネタが重なりますが、今回は、私の方が後からということになります。
それぞれに、それなりの人生経験を重ねて来た男と女の、一途と言うかピュアな触れ合い。
こんなふうに私はなりたい。(でも相手がいない・・・トホホ。)

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