文七元結のこと
ある噺家さんは、一番難しい噺だと言います。
人物造形が 一筋縄じゃいかないのですよ。
揃いも揃って登場人物の奥行きがそれぞれ深い。
深すぎる。
なにしろ落語はこれら全員を一人で演じるんですから。
薄っぺらな奴が演ったら、セリフをただ棒読みにするのと同じです。
学芸会もいいところで、とても聴いちゃいられない。
逆にもったいつけ過ぎても鼻について嫌らしい。
この「程の良さ」の調整は落語家のセンスにかかってきます。
誰が創ったんだか知らないけど、まあ大変なネタですわ。
プロでも一目を置く、“ザ・落語”。
OBの先輩方も、この噺が物凄く大きな噺だと知っているだけに、「どうなるかと思った」と。
それだけ大きい、名前だけで負けてしまいそうな、素人風情がやれるような噺ではないんです。
先輩やご通家から、「それ見ろ、思った通り、10年早かった」と言われそうな恐怖も抱えながらの高座。
師匠から言われて、オチは自分で考えました。
一方で、近江屋が長兵衛まで行き着く過程では、様々な演出がありますが、私は人情噺を徹底するため、ややあっさりした形にしましたが、元の師匠の高座本の仕込みの素晴らしさを実感です。
小槌の柄の結城の財布、「佐」の字の縫い取り、「吉原の…」という、三題噺のような僅かな手がかり。
吉原…佐の字…小槌…。
繋げれば、吉原の大店「佐野槌」となる。
商人しているなら、吉原の大店を知らない訳がないと。
それから、長兵衛は文七に、お久が身を売ったことは言わない。
それが、親心であり、見栄でもあるはず。
師匠からのアドバイスでした。
オチは、未熟な文七がすぐにお久をめとるのは不自然だし、「文七元結の一席でございます」では、オチがないのは落語ではないという師匠と私の信念。
元結は、紙で出来た髪を束ねるもの、文七とお久の縁は、図らずも博打に現を抜かした長兵衛が元。
だから、結びの髪・結びの神の地口にしてみました。
師匠にご指南いただいたちょうど30席目。
何か大きなものが掴めた気がします。
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