本当のお大尽・スポンサー?
某プロ野球球団の打撃コーチの辞任が発表されたという記事がありました。
球団は打撃不振の責任を取ったものと説明しているようですが、実は、オーナーの現場への介入に不満がたまったことが辞任の最大の理由だそうです。
苦境にあって、効果的な打順を組み、作戦を考えるのが監督、コーチの仕事。
ところがオーナーの現場介入が多く、コーチの不満が蓄積していたようです。
オーナーは1、2軍の選手入れ替えなどのほか、試合直前にオーダーの変更を要求することもしばしば。
現場の長である監督は、コーチの見解との“調整役”となり、オーナー案を受け入れつつ否定もして、難しいかじ取りを進めてきたそうで、余計な体力を消耗しているいう訳ですね。
コーチは、打率が2割台前半に低迷していた外国人選手を懸命に指導し、その効果もあって2割6分近くまで上昇。
ところが複数安打の翌日、“鶴の一声”でスタメン落ち。
コーチ会議で「やっていられない。これが続けば辞める」と激怒したそうです。
今回の辞任のきっかけには、打撃不振の責任の所在を求めたオーナーからの2軍降格などの配転の要求があったとされるようですが、選手からの人望があり、指導力に定評があったコーチがチームを去ることで、多くの選手に動揺が走ることは間違いないようですし、ファンにとっても愉快ではないでしょう。
お大尽やスポンサーというのは、「金は出すが口は出さない」を以って良しとすべきだと思います。
球団を持つというのも、金持ちの遊びのひとつだとすれば、勿論強ければなおよしですが、鷹揚に構えて金だけ出すというのが、本当のお大尽だと思います。
オーナー企業(起業者)でもあり、自信もあるのでしょうが、その前に「度量」がなくてはいけません。
中途半端なオーナー企業で専制君主制を敷いていては、奢れる平家久しからずになると思います。
「莨(たばこ)の火」という噺を聴かせたいものです。
駕籠屋の紹介で、柳橋の万八という料理茶屋にあがった。
田舎爺と言いながら、結城ごしらえの上下、献上の帯をキュッと締めて無造作に尻をはしょって甲斐絹の股引き、白足袋に雪駄ばき、首元には寒さ除けとホコリ除けに紺縮緬の布を巻いた、なかなか身なりのいい老人。
頼み事は男衆に限るからと店の喜助をご指名になった。
男衆の喜助に言いつけて駕籠屋への駕籠代と祝儀2両を帳場に立て替えさせ、風呂敷包み一つを座敷に運ばせると、さっそく芸者の若い女や年増の芸者も呼んで、吉原の幇間を総揚げにして、自分は柱を背に手酌で飲み始めた。
自分はニコニコ笑って、それを肴に飲んでいるだけ。
喜助に帳場から5両の立て替えを頼んで、今来た若い芸者に祝儀をはずんだ。
年増の芸者には10両の祝儀を立て替えさせた。
15両の立て替えをして幇間に祝儀をはずんだ。
喜助を含めて、店の者全員にお立て替えとして20両を頼んだが、初めての客に帳場ではいい顔をせず、断りを入れた。
いよいよ自分の祝儀という時にダメを出された喜助、がっかりしながら老人に告げると「こりゃあ、わしが無粋だった。じゃ、さっきの風呂敷包みを持ってきておくれ」。
鬱金木綿の風呂敷には、微塵柳行李があり、中には小判でぎっしり詰まっている。
これで立て替えを全部清算したばかりか、喜助達にも祝儀を付けて、ざっくりと手に持った金を会計だと払い、余ったのを持って帰るのもめんどうと、太鼓と三味線に祝儀をはずんでおいてお姉さんの伴奏にのせて、小判を残らずばらまいた。
「ああ、おもしろかった。はい、ごめんなさいよ」。
あれは天狗かと、仰天した喜助が跡をつけると、老人の駕籠は本所から木場の大金持ち・奈良茂の屋敷前で止まった。
奈良茂なら御贔屓筋で、だんなや番頭、奉公人の一人一人まで顔見知りなのに、あの老人は分からない。
不思議に思って、そっと大番頭に尋ねると、あの方は旦那のお兄さんで、気まぐれから家督を捨て、今は紀州の山奥で材木の切り出しを営む、通称「あばれ旦那」と呼ばれていた。
施しもしているのだが、ときどき千両という「ホコリ」が溜まるので、江戸に捨てに来るのだ、という。
喜助が今日の事情を話すと「立て替えを断った? それはまずかった。黙ってお立て替えしてごらん。おまえなんざあ、四斗樽ん中へ放り込まれて、ヌカの代わりに小判や小粒で埋めて、頭には千両箱の二つも乗せてもらえたんだ」。
腰が抜けた喜助、帰って帳場に報告すると、これはこのまま放ってはおけないと、芸者や幇間を総動員、山車をこしらえ、人形は江戸中の鰹節を買い占めてこしらえ、頭の木遣りや芸者の手古舞、囃子で景気をつけ、御神輿も出て、陽気に奈良茂宅に「お詫び」に参上すると、2階から覗いた旦那さん、機嫌を直して、2~3日したらまた行くという。
ちょうど3日目。
あばれ旦那が現れると、総出でお出迎え。
「駕籠屋も遠くで返したので、チョット疲れた。縁台で休ませてもらおう」
「どうぞ」
「ああ、ありがとうありがとう。ちょっと借りたいものが」
「へいッ、いかほどでもお立て替えを。これが2両、これが5両、これが10両、15両で、20両、30両、40両に50両」
「そんなんじゃない。たばこの火をひとつ」。
・・・粋で豪勢ですね。