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2015年7月 4日 (土)

不孝者

上方では「茶屋迎え」という演目だそうです。
師匠の一門会での高座本プレゼントで、私は「不孝者」でした。
下男の清造が帰ってきた。
「若旦那と日本橋の山城屋さんに行ったのだが、謡いの会があるからそれを聞いたら帰るので、遅くなるので私だけ先に帰ってきた。後でお迎えに行きます」
「素謡いか、楽器が入るのか」「太鼓が入って派手にカッポレなどやっていました」
「顔を見せなさい。顔に”お金をもらって嘘を吐いています”と書いてある。顔をこすってもダメだ。2分もらったな」
「いいや、1分だ」  
「上がった場所は柳橋じゃないか。そうか、橋を渡った先の”住吉”か」
清造と着物を交換して頬被りをして、下男として柳橋の住吉にやって来た。
迎えに来たと告げたが、若旦那はもう少し遊びたくて、下の空き座敷に旦那をほうり込んだ。
女中が若旦那の差入れだとお銚子と肴を事務的に持ってきた。
「バカ野郎。親をこんな部屋に通して。この酒だって若旦那からだと言うが、回り回って私の懐から出るんだ。あの不孝者は私を清造だと思っている、かぶり物を取るとその驚いた顔を見るのが楽しみだ」
2階の部屋では新内が始まって、「縁でこそ~~」と息子の声で良い感じになっている。、「ん、うめえじゃねえか。あれくらい唄える歳になったのか、でも芸者に習った唄はだから駄目なんだ。ちゃんと師匠と差し向かいで身に付けたもんじゃねえと・・・」と渋い顔になる。  「八ちゃん居ますか。あ、ゴメンなさい。酔って部屋を間違えたようです」
突然芸者が部屋に入りかけてきた。「チョット待ちなさい。お前”琴弥(きんや)”ではないか」
「・・・まぁ~、旦那じゃありませんか。どうしたんですその格好は」
「大きな声で『旦那』はよしてくれ。これには訳があって・・・、ま、襖を閉めてこちらにお入り。嬉しいね、ここでお前に会えた上、お酌してもらえるとは・・・。綺麗になったね」
「やですよ。私はお婆ちゃんです」
「お前がお婆ちゃんなら、ここの芸者はみんなお婆ちゃんだ。それより青臭さが取れて、大人の魅力がいっぱいだ。ところで、今は世話をしてくれる旦那がいるのだろ」
「いえ、私は一人ですよ」
「それは芸者の決まり文句だ。いいんだよ、ここは二人っきりだから」
「怒りますよ。私を捨てたのは旦那ですよ」
「捨てませんよ。分かれたのは本当だが・・・。ま、聞いておくれ。あの当時は請け判を押してしまったせいで、店が危なく人手に渡る所だった。間に入ってくれた人が、こんなときに女を囲っていたのでは周りがほっておかない、それで手切れ金を持たせたが、本当は私が持って来たかった。それでは心がぐらついてしまうので番頭に持たせた。そのお陰で店も立ち直ったが、その心労でどっと床についてしまった。幸いに、元気を取り戻し、お前に会いたい気持ちが高ぶってきたが、逢って新しい旦那を見せつけられたら、私は苦しい。それできっぱりとお前の事はあきらめた。それ以来遊びも止めて、女っ気は何も無いんだ。ところで、どうしてお前ほどの女に旦那がいないのだ」
「本当は若い旦那が付いてくれたのですが、その男は2.3ヶ月後から遊び始めて、私の心をズタズタにしたのです。これではいけないと別れて、その後は恐くて旦那を持つ気にもなれなかったのですが、女ですね~、寂しい夜もあるでしょ、悲しいことや辛いことを聞いてくれる人が欲しいのは本当なのです」
「そうか、本当に一人なんだ。分かりました。こう言っちゃなんだが、お前を世話するぐらいの力はある。色気抜きで、お前の相談相手になってやろうじゃ無いか」
「旦那、嬉しいじゃないですか。昔を思い出しませんか」
「何か有ったかい」
「箱根から湯河原に回って、熱海で梅を見たでしょ。あの梅は忘れませんよ」
「そうだったな。あの頃はお前も側に居てくれて、力もあってドンドン仕事をしたもんだ。これからは仲良くいこうじゃないか。昔馴染みっていいもんだ」
「旦那、今度いつ逢ってくれます?」
「明日はイケナイが明後日にしよう。分かった、そこに行くよ」
「旦那、ホントに約束ですよ」
「それより、私が行ったら若い旦那が出てきたりして・・・。痛いな、そんなとこツネったら」  しなだれかかる女の化粧の匂いとビンのほつれ毛、島田が傾き、肩に掛かる旦那の手に力が入る。
「お伴さ~ん、若旦那がお帰りですよ」
「チェ、親不孝者め」。

花柳界の噺は、今まで演ったことがありませんし、かなり艶っぽい場面もある噺ですから、私には難しいと思います。
でも、オチが秀逸だと思うので・・・。
Geisya_sigemasa
ところで、芸者と花魁の違いについて、整理をしてみました。
花魁は艶を売る商売ですから、服装も髪型も化粧も派手やかで男を引きつけます。
芸者は原則、艶のお相手はしません。
芸を売るのが商売ですから、花魁から比べると一段引き下がって外見は地味造りです。
その芸も唄、楽器、踊り・・。
酔客に楽しく遊ばせるのも芸の内です。
「たちきり線香」の小糸も、芸だけで売る芸者だったと思います。

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