夏の苣
「夏の医者」という噺のオチは、「夏の苣(ちしゃ)」の地口オチ。
苣というのは、西洋ではレタス、日本では小松菜というところ。
暑い夏…。
鹿島村の勘太もダウンしたのか、ご飯を茶碗に七、八杯しか食べることが出来ない。
「もう歳だから」と息子が心配していると、見舞いに来たおじさんが「隣の一本松村の玄伯先生に往診してもらえば」と言う。
それを聞いた息子はおじさんに留守を頼み、ばっちょう笠に襦袢一枚、山すそを回って六里の道を呼びに行った。
汗だくになって訪ねてみると、玄白先生は畑で草取りの真っ最中。
早速頼み込み、息子が薬籠を背負って二人で村を出発した。
「山越えのほうが近道だべ」 先生がそう言うので、二人で山の中をテクテク。山頂に着いたときには二人とも汗びっしょりになっていた。
そこでしばらく休憩し、さぁでかけよう…とした所で、なぜかあたりが真っ暗になった。周囲はなぜか温かい、はておかしいと考えて…。
「こりゃいかねえ。この山には、年古く住むウワバミがいるてえことは聞いちゃいたが、こりゃ、飲まれたかな?」
「どうするだ、先生」
「どうするだっちって、こうしていると、じわじわ溶けていくべえ」
うっかり脇差を忘れてしまい、腹を裂いて出ることもできない。
どうしようかと考えている先生の頭に、あるひらめきが舞い降りた。
息子に預けた薬籠を渡してもらい、中から大黄の粉末を取り出すと、ウワバミの腹の中へパラパラ…。
ウワバミは七転八倒…ドターンバターン!
「薬が効いてきたな。向こうに灯が見えるべえ、あれが尻の穴だ」
ようやく二人は下されて、草の中に放り出された。
転がるように山を下り、先生、さっそく診察すると、ただの食あたりとわかった。
「なんぞ、えかく食ったじゃねえけ?」
「あ、そうだ。チシャの胡麻よごし食いました。とっつぁま、えかく好物だで」
「それはいかねえ。夏のチシャは腹へ障(さわ)ることあるだで」
薬を調合しようとすると、薬籠はうわばみの腹の中に忘れてきてない。
困った先生、もう一度飲まれて取ってこようと、再び山の上へ登っていく。
一方…こちらは山頂のウワバミさん。
下剤のせいですっかりグロッキーになってしまい、松の大木に首をダランと掛けてあえいでいた。
「あんたに飲まれた医者だがな、腹ん中へ忘れ物をしたで、もういっぺん飲んでもれえてえがな」
ウワバミは首を横に振って、「もういやだ。夏の医者は腹へ障る」
「うわばみ」は、大きなヘビのことで、漢字では蟒蛇と書くこともあります。
伝説上の大蛇(おろち)を指すこともあるようですが、大きなヘビを指す日本語としては、古代の「をろち」に代わって15世紀頃から使われるようになったようです。
・・・そうか、すると先日出雲で買った手拭いは、おろちの絵柄でしたから、蛇なんですね。
龍のようにも見えますが。
ヤマタノオロチ(八岐大蛇)は日本神話に登場する伝説の生物です。
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