一人酒盛
何度も言いますが、先日の「紀伊國屋寄席」では、本当に初めて「格」というものの違いを目の当たりにしました。
先日の「紀伊國屋寄席」の圓窓師匠の「一人酒盛」。
うまい酒を貰ったから一緒に飲もうと、留さんを呼びつけたのが飲ん兵衛の熊さん。
肴は何にも要らないが、格好がつかないからと、留さんに刺し身を買わせて漬物を出させて、燗の用意までさせた。
ちょっと一口試してみようと口を付けながら
「飲み友達は沢山いるが、留さんが一番好きなんだよ、二人でじっくりやろうよ」
「そう言われると嬉しいねぇ、で旨いかい」
「飲んでる時にせっつくんじゃねぇよ、もう一本熱いのを取ってくれ」
しゃべりながら延々と一人で飲み続けた熊さんが気分よく酔って、留さんに何か歌えというが、素面じゃ歌えねぇ。
だんだんぞんざいな口になり、終いに留さんを馬鹿呼ばわり。
とうとう留さんが一杯も飲まないうちに酒が無くなってしまった。
留さんが怒って飛び出すと、近所のおかみさんが飛び込んで来て、
「どうしたんだい、喧嘩でもしたのかい。」
「留公なら放っときな酒癖が悪いんだから」
1合徳利で5本(5合)を飲む、その過程を一人の会話で進めて行く。
「試し酒」も、酒を飲むにつれて酔って来るところを演じる噺ですが、あちらは1升盃で3杯。
よく、落語と「一人芝居」と似ていると言いますが、確かに一人で演ずる共通点はあるものの、落語は複数の人を演じ分ける必要がある。
その分、落語の方が難しいと言う人もいます。
ところがこの噺は、ほとんど一人で一人を演じているので、「一人芝居」に近いと思いますが、恐らく高難度の落語だと思うのです。
ひとつひとつの場面、ひとつひとつの小道具、ひとつひとつの台詞、これを一見鷹揚に、しかし実は緻密に組み立てて行く・・・。
左右・上下の振り(会話)がない分、噺全体の緊張感やリズム感を維持していく技量・・・。
「格」が違いました・・・。■一人芝居
俳優1人だけで演じられる芝居。
日本では1926年、築地小劇場で汐見洋がチェーホフ作「タバコの害について」を独演したのが先駆。
戦後は、杉村春子が48年に独演したジャン・コクトー作「声」が注目された。
その後、坂本長利独演の「土佐源氏」、渡辺美佐子の「化粧」の成功がきっかけとなって一人芝居が急増。
イッセー尾形の「都市生活カタログ」シリーズは作品が300本を超え、欧米でも上演されている。
「落語・噺・ネタ」カテゴリの記事
- 稽古をした演目(2020.09.09)
- 十八番(2020.07.13)
- 「紺屋高尾」と「幾代餅」(2020.06.18)
- 落語DEデート(2020.05.24)
- 古今亭志ん朝を聴きながら(2020.05.23)